星月の君



 言葉に詰まった私に、兄は口を開く。
 どうやら見られていたらしい。しくじった、と小さくもらすと「お前なあ」と説教が本格的に始まった。


 噂というのは、月や星が美しい夜に正体不明の直衣姿の若者が笛を吹く云々というもので、しかもその笛の音が良いとかなんとか。
 笛の音を褒められていることには素直に嬉しいな、ともらせば「ちゃんと聞け」と説教が長引くので口を閉じる。



 私が着飾るのがあまり好きではないのは、まるで男を待つだけの女、というのが気に入らないからだ。

 あんな下心ばかりの男を待つのはごめんである。



 昔から兄の真似をするのが好きだった、というのが今も残っている。
 こんな重くて動きにくい着物より、断然狩衣や直衣のほうが動きやすい。弓の練習だってそっちのほうが動きやすいし。だが、そんな姫は姫とはいえないことくらい、私は知っている。



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