星月の君
3 囁かれる、噂
「ゆーきーなーりー!」
ぎょっとして見れば、「遊びにきたよ」と我が物顔でいうものだから、もう溜息しか出ない。
何しにきた、と聞けばずばっと突き付けてくる「何だそれは」
「何って、文に決まっているじゃないか。僕よりモテる行成に何か一言貰おうと思ってね」
「自分で書くものだろう、恋文は」
「真面目だなあ。贈る歌を自分以外の人に頼んで作って貰って贈る人もいるのに」
ああ、知っている。
私とてあまり歌は得意ではない。だが、それでも自分の心が相手に伝わるようにするのが、恋文ではないのか。
腰を下ろした敦忠は恋文用らしい様々な紙と、それから考えてきた歌をあれこれ見せてくるが、どれもこれも誰にやるのやら。
これではあの、色好みで有名な源基俊殿のようになってしまうのではないかと、やや心配なのだが。