星月の君
彼の場合、あちこち手を出しても「ああしょうがないよ。あの美貌だもの」と言われかねない美形でも有名である。
私からしてみれば顔が良ければいいのか、と女にもいいたくなってしまう。
私はそんな基俊殿のようになってしまうといったが、彼に比べたら敦忠はまあまあといったところだろう。
やや色好みの部分を除けば、十分いい男として通るし……あとは口を開かねば、と私はさらに付け加える。
「お前、色好みすぎるぞ。少し自重しろ。いつか怨まれることになっても知らんからな」
「あ、思い出した。怨まれるっていえば―――」
ああ、始まった。
私は聞いているふりをしながら、漢籍を開く。いつものことなので敦忠も一人で喋り、ときおり私が口を挟む。そのくらいがちょうどいいのだ。
―――そういえば。
敦忠の「琵琶がうまいんだよ!」という惚気に突入しようとしているとき、私がふと、思い出したのは笛の音だった。
琵琶で思い出すなんて、とぼんやり物思いにふける。