星月の君




 藤原顕季邸の近くに差し掛かろうとしたときだ。



 昔聞いた、あの懐かしい笛の音が聞こえたのだ。

 昔、そう、私が元服前に出会い、勝手に星姫と―――星月の君と名付けた彼女が吹いていた、あの笛の音。

 あの笛の音は私が聞き慣れないものだったからか、よく覚えていた。だが自分で試してもそう、上手く吹くことはできないし、何たって全て聞いたわけではない。
 笛の音と、少女は今でも覚えているのだ。


 しかも、そう、藤原顕季邸に差し掛かろうとしたときに聞こえたそれは、遠出した時に聞いたものと同じだった。故に私は車を止めさせたのだ。

 お供の者に如何されましたか、と聞かれて「少し静かに」と制して耳を澄ました。

 やはり、似ている。

 いや、同じだろうか。
 でも何故ここで?



 遠出したときに見た、あの女性……。そう、彼女も同じ音色を奏でていた。




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