星月の君
顕季殿は北の方でも迎えたのだろうか。
「また物思いにふけって」
「……、別にそういうわけでは」
扇を広げて口元き隠す敦忠は、どうせにやついてでもいるのだろう。
そう思っていた私を裏切るようにぱちん、と音を鳴らして扇を閉じた敦忠は真面目な顔だった「ねえ、行成」
「恋ってね、するものじゃないんだよ」
「いきなり何だ」
「いいから―――。よく落ちるものだなんていうけどさ、恋の始まりって本人にはわからないんだ。気づけばその人だとか、関連付くものとか考えてしまってて……無意識ってやつが一番面倒で、厄介なものなんだよ」
無意識。
ああ、そうだろう。
私が山吹を愛したときもそうだった。
どうしようもなくなった。苦しい。でもその苦しさでさえ、愛しくも思えてしまう重症さ。盲目さ。
この人と一緒になれるなら、試練にでも堪えてみせよう。そうして手に入れた愛は、私を満たしたのは確かだった――――もう終わったものだが。