星月の君
この日からいつもより多く女房が私の傍に控えるようになった。
噂を信じた者からの文も届いては兄が「お前なんぞにやらん!」と文に向かって声を出して、ばらばらに破いてしまうらしい。
私の目には内容は入ってこない。その前に静が目を通し、処分してしまうことも多かった。 恋文に分類されるそれらには、裏を使って小雪と落書きをしたり、湯を沸かすための燃料にしたりなんかされたとかなんとか。
静が一際気持ち悪い内容の恋文に「燃やしましょう」と笑顔でいうものだから、私と小雪はそろって目を丸くした。
「えっと、静」
「安心して下さいませ。この静、その辺の色好み男に若葉さまを嫁がせる気はありませんので」
「わたしもです!」
間違いなく、女房の中で一番頼りなるのは静だ、と思った瞬間である。
ちなみに、私はしばらく兄の"北の方"の噂の被害にあうこととなる。
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