星月の君
待賢門外にそろそろ迎えの車が到着しているころか、と思う。
今日の予定はあれだけだ。うっとうしい女房らの視線を避けるようにして出てきたのだが。
最悪な相手に会った。
「おや、行成殿ではないか」
「……基俊殿」
整った顔と、すらりとした身長。甘く低い声。
今貴族の中でもっとも色好みで有名な源基俊殿がそこにいた。
「今から何処かへ?」
「これから友人宅へ呼ばれていますが」
「ほう。貴殿ほどの良い男なら女がほうって置かぬであろうに。もったいない」
何が"もったいない"だ。
いい男だとあちこちに手を出している基俊殿に言われたって、嬉しくもなんともない。むしろ厭味に聞こえる。
今日はやや興味深い噂を耳にしていたので、用事を済ませて早く帰ってて一人になりたかったのに。友人に呼び出しをくらっているし、この男はまだ話したいらしく「聞いたか?」と続ける。