星月の君




「最近例の、星姫は奏でなくなったとか」

「星姫、とは」




 私が知っている"星姫"―――星月の君というのは、幼い頃に、同じく成人前の少女に自分が勝手に名付けた名前であった。
 一瞬どきりとしてしまったのを悟られぬように聞き返せば、基俊殿は聞いていないのか、という。
 何のことかわからない。
 今日聞いたのは別の噂である。




「夜、そう、星の美しい夜に、藤原顕季邸の近くで美しい音色が聞こえるのだよ。あの辺りは貴族の邸があるから、誰かの姫なのではと噂になっていてね」

「そうなのですか」

「手がかりが無いからなんとも行動に移せないのだが……。彼女を星姫と呼ぶやからが出てきているのだ。それで私もそう呼んでいるのだよ」




 ああ、あれか。

 知らないふりをしたが、私にも覚えがあった。そう、藤原顕季邸近くで聞こえたあの音色。確かに美しい音色で、引き込まれるようだった。それに思い出ともいえる笛の音は、私を苦しくさせるあの音と同じだった。



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