星月の君



 あれから聞いていないが、私以外にも聞いていた者がいるていう事実に、少しだけ落胆している自分に驚いた。

 何を馬鹿な。

 私だけが聞いていたい、などと一瞬でも思っていた自分がいたのだ。
 ――――気のせいだ。

 この色好み男に"星姫"や"星月の君"などという名を口に出してほしくない。




「もし、正体がわかったら是非教えてくれ」

「ええ」




 ふって目を細めて去っていった男に、どっと疲労する。

 待たせてあった車に乗り込んだときには、敦忠には悪いがそのまま帰ろうかと思った。しかしすでに「終わったらすぐ僕の邸に来て!なるべく早く」という文を貰ってしまっている。
 溜息。

 正装姿のままでもいいから早く来い、ということなのだろう。だがさすがに無理がある。友人同士ゆえに衣くらい借りてもいいのだが、まあ、そんな急ぎの用事でもなかろう。


 先に我が邸で着替えて、車で友人邸に向かえば「遅いよ!」と予想通りの言葉をくらい、お前なあ、と呆れる。
 まあ、あの源基俊殿につかまった、といったら凄い顔をして納得したからよしとする。




「それで急いで来いと呼び出しておいて、何があった」

「……君ってさ、結構噂に鈍いよね」




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