星月の君






 御簾越しに聞こえる。
 そんな近くまできた私は、ふと「なにやってんだ」と己に言い聞かせたくなった。戻れ、と。

 だが、確かめたかった。
 君が、誰なのかを。
 どうしてあの少女と同じ音を、奏でるのかと。 
 そして、遠出に出たさきでも聞いたあの音は、君なのかを。





「――――もし」




どう声をかけたらいいのかわからず、そういったら笛の音がやんだ。それから鋭く「誰です」という声がした。
 女性だ。
 言葉に詰まった私はとりあえず、素直に言う。





「顕季殿の友人として参った者です。その笛の音と同じもの昔聞いたので、懐かしく思い声をかけさせていただきました。その、笛の音は誰に教わったか聞いても?」

「……父が好んで吹いていたのを、私が覚えたのです」





 父上に……。
 そこで、ええいやけくそだ、と自分でも驚くくらい積極的に女性に話しかけたのは身内か、あるいはあの――――山吹以来だろう。 
 



「貴方は、顕季殿の北の方なのですか?」




 かたん、と音が聞こえる。御簾から見えるのはうっすらとした、光だけだ。それにむやみに女性の顔を見るのは失礼にあたる。
 女性は「貴方も噂を信じたのですか」と聞いてきた。否、と私は答える。聞けばあの方には思う方がいると聞いたと。
 そして何故か敦忠のことをひっぱりだし、もし北の方を迎えるならば友人らに一言くらい言うのではないかと思ったので、信じなかったなど……。

 北の方ではないのなら、もしかしたら――――。

 気がつくと、一人べらべらとはなしていてはっとする。





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