星月の君
1 男、過去を思い出す
* * *
その人は、美しい人だった――――。
初めて彼女を垣間見たときの、あの高鳴りは本物だった。一目惚れに近かった。
ひっそりと慎ましく暮らしていたであろう彼女は、本当に、美しい人だった。
彼女が私の名前を呼べば、まるで舞い上がるような心地になる。文が届けば、今すぐにでもとんでいきたくなった。
それに、友人である敦忠は眉を潜める。
「友人として少し言わせてもらうけどさ、行成。彼女、他の男から文を貰っているらしいじゃないか」
「あくまで"らしい"だろう?私は彼女を信じている」
嫉妬はしない、筈がない。
出来るなら、私だけのものでいてほしかった。
私だけの、君で。
しかし、私は知ってしまったのだ。
敦忠が言っていた通り彼女――――山吹にはほかにも男が文を出し、しかもその文が恋文だったということを。
そして―――私に別れを切り出したのだ。
通って、手枕を交わした仲だったはずなのに。