星月の君
5 訪問者からの逃亡
文です、という声に私はきゅっと眉をひそめる。さて、どちらからかと思うからだ。
文を持ってきたのは静だった。
さすがに兄の友人である"あの人"と文のやり取りをしている、となったら兄もまたなんともいえない思いをするのではないかと思った。だが、最初にその文を受け、確認した
静が何となく想像ついたらしく、他の女房らに見せぬまま私に持ってきてくれたのである。
そうして今に至るまで、"あの人"からの文は静、あるいは小雪が持ってきてくれるようになっている。すでにあの日のことを話していた
今回の文は、行成様か。
だが静の表情はものすごく怖い。
「姫さま!」
「はいっ」
がっしり肩を掴まれ、私は怯む。
傍で絵巻物を見ていた小雪が顔をあげ近くに寄ってきた。
「今宵からしばらく、私と部屋を入れ替えて寝ましょう!」
「え、え?何があったの?」
「これを見てください。あの色好み野郎―――失礼。源基俊様からの文です」
品のよい紙と、花。一発で送り主がそれなりの身分のあるものとわかる。