星月の君







 目を覚ましたときには、天井が目に入った。


 そして、もしかしたら夢だったかも知れない。そう思ったが、違った。
 置かれている家具や、香の薫りが違う。それに、と私は体を起こす。


 私が目覚めると、ちょうど女房らしい女性が「お体は大丈夫でしょうか」といい、簡単な食事まで準備されていた。私は申し訳なく思った。
 食事を頂いたあと、「お館様を御呼びしますね」と下がっていく。
 見れば、外は明らんでいた。
  朝か、と思う。朝―――――。


 半分まで上げられた御簾。
 几帳を隔てた向こうに「気分は」という声がした。







「あの、私は」

「――――あの後気を失われたためら我が邸に。ご安心を。顕季殿にはすでに文を出し、迎えをよこすということです」

「あの―――行成さま」







 気を使ってか、やや離れた場所にいる。それがどこかもどかしく、遠く、私は「もう少し近くで話しませんか」といった。遠いと伝わりにくいかと思ったからだ。
 言われた行成様は僅かに驚いた様子であったが、やがて「失礼を」といって部屋に入り、そして私に一番近い几帳の前に座ったらしい。

 ――――助けて、貰ってしまった。


 兄の友人であるから変なことをしないとは思っている。けれどやはり、とどこか思う気持ちがないとは言えなかった。だが、行成様にいたってはそうはならない、と思う。
 何を言えばいいのか、沈黙が続く。







「あなた様のことを、皆がどう御呼びか御存じか」

「えっ…?」







 急な問いに、私は言葉を返せなかった。





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