星月の君






 予想通り、とはいかなかった。
 行成様の邸へ迎えにきた車にのって、私は邸へと無事に戻った。
 だが――――。






「若葉っ…!」






 邸に戻って早々、兄に抱き締められたのである。
 私はてっきりお説教を食らうだろうと覚悟していたのだが、それを裏切るようにして兄は「無事でよかった」といったのだ。

 聞けば静は華麗に男から逃げたらしく、勿論無事。

 大変だったのは小雪である。
 ごめん、と抱き締める。まだ幼い彼女は不安で心配でたまらなかっただろう。
 心配、かけた。





「ごめん、なさい」






 それは勿論、兄や静、小雪にあてた言葉であったが、もう一人にもあてた言葉でもあった。




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