星月の君
6 星月の君
* * *
騒がしいな、と思ったら「聞いているの!?」とやや不機嫌そうな敦忠がこちらを見ていた。
「悪い、聞いていなかった」
「ちょっと~、この僕が一生懸命話しているのにぃ」
「悪かったな。で、なんだ」
いつも通り邸に押し掛けてきた(来る数分前に訪問の文が届いた)敦忠の愚痴やらに付き合っていた私は、文机に置かれている書物から視線をあげる。
「源基俊いるだろう?なんと、星姫に逃げられたらしい」
「……へえ」
――――噂というのは、怖い。
そもそも誰がいったのだろう。私は思い出すが己の従者が話すはずはなく、どこかで見られていたのか、あるいは基俊殿本人が武勇伝のようなつもりでべらべらと話したのか。
その日、自分は奴から逃げてきた彼女を助けた、などとはいわない。
敦忠が溜め息をつく。
「でも問題はそっちじゃないんだよね。問題は星姫が、顕季の妹だって知られたっていうほうで―――」
「!―――おい。お前いつからそれを知っていた?」
「え?僕は途中から知っていたけど。星姫の正体が顕季の妹だって」
ああ、と顔を覆う。
私と顕季殿が親しくなったのは、敦忠と比べたらまだまだ日が浅い。よって、星の出る日に美しい音色を奏でるという星姫の噂がある程度出たときに気づいたのだろう。だが、敦忠は私も知っていると思っていた……?