星月の君
「ああ、似ているんだよ。いや、曲は同じだろう」
「ふうん。聞いてみたの?え、聞いてないの!?どうして」
「当時の少女が覚えていると思うか?それに――――」
「ああもう、じれったいなあ」
ぐっと腕を伸ばしたかと思うと、私を指差す。
「君、好きなんだろう。若葉を!」
びしり、と言われた。
この男はそういうことだけには前向きなんだな、と思う。
私が山吹に別れを切り出され、引き下がるしかなかったときも、そう。次にいけといってみたり、噂の美人うんぬんをいう怪しげな話を持ち出して来たりと、私よりも恋愛にはかなり前向きだというのは、知っている。
――――好きなんだろう。
若葉という個人を?
だが私は、あの思い出の曲を奏でていた少女と重ねているだけだとしたら、どうなる。
それが若葉だという確信もない。だから聞いたのかといわれたのだが……。
私は聞けずにいた。
何故聞けない?
「ねえ行成。今、君が惹かれている子は目の前にいて、しかもあの色好み男に目をつけられているっていう状況なんだよ? 思い出の子と、今いる女性と、どっちが自分が求めているのか、恋慕っている相手かちゃんとわかってる?」
いつになく敦忠は真剣な顔だった。それに僅かに驚きながら、言われた言葉が響く。
私は山吹と別れてから、恋愛から少し身をひこうと思った。
愛していた相手は自分と違う相手を選らんだということが、裏切られた、と女々しくも引きずった。
そんなとき聞いたのは―――あの笛の音。