星月の君




 ずいぶん昔、そう、元服前のこと。


 あのとき、ちょうど流行っていた月の姫の話と、星月夜。
 彼女が幼いながらも奏でるその姿は、翁と媼に育てられた月の姫を思わせた。星月夜だったから、そんな理由で星姫と、星月の君と名付けて……。



 あれが、もしかしたら私の初恋かもしれない。


 ふっと目を閉じると、笛の音が思い出せる。だがそれを奏でているのは、"少女"ではない。"彼女"だ。文で他愛のない日常のことや、彼女が兄のことを書いてきたり、そんな些細なことでも、私にとって大切なものになっていた。

 気づけば山吹のことを引きずっていた私が、少しずつ薄れていた。

 彼女は、媚びてくるような女性ではない。そして、強さがある。それでいてやはり女性であるから、という弱さもある――――。

 目をあけて、大きくため息をついた。





「まさかお前に説教される日がくるとは」

「ちょっと馬鹿にしてるでしょ。僕だってそれなりに経験というものがあるんだからね」






 ふっと、自然と笑えた。
 わかっている。
 もう、やるべきことも、言うことも。





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