星月の君
敦忠に背中をおされてしまったか、と私は思う。
古い友人で、昔からあいつは何かある度に私のところに押し掛けては「どうしよう!行成」と相談しにきていた。それは元服しても変わらず、良き友だった。まあ、少しばかり色好みというのは傷であろうと思うが、悪いやつではない。
まずは、兄を攻略しちゃったら?
いきなりとんでもないことを言い出した敦忠がいうには、本人もそうだが、問題はその兄のほうだという。確かにそうかもしれない。誰よりも妹である若葉を大切にしているのは、兄である顕季殿だ。彼の許しが必要となるだろう。
「行成殿」
敦忠に色々と見破られてから後日。
さて邸にといったときに、厄介な相手に捕まった。
「基俊殿、いかがなされたか」
「ここ数日前、朝早くに行成殿の邸に車がとまつまているのを見かけました。その車は、藤原顕季殿の邸の前でとまったかと思うと、一人の女が降りた」
――――見られていたのか。
"星姫"に会いに行き、しかし逃げられたという状況で、もしかしたら近くで機会をうかがっていたのかもしれない。それか、別の女のもとからの帰りか。
どっちでもいい。
基俊殿の言いたいことは、わかる。
「彼女が"星姫"ではないのか?」
「私はただ、顕季殿の妹君がお困りな様子であったので、少々手を貸しただけです」
「ほう……では、"藤原行成が星姫と文のやりとりをしている"という噂は?」
「さあ。噂はあくまでも、噂でしょう」
攻防戦、といった感じか。
位でいうならたいして変わらない。容姿だって些かこちらが劣っているであろうが、中身はこちらのほうが少し勝っている、はずだ。