星月の君




 ふっと鋭く細められた目がこちらを見遣るが、やがて「そうですか」といって、すれ違う。

 誰にでも苦手な人というのはが一人くらいいるものだが、私はこの男が苦手だ。苦手というよりはこう、気に入らない、というほうがいい。
 なんといったって、"星姫"を気にしているから。

 さて、と歩き始めようとした私を「行成殿」と呼び止めた。振り替える間もなく、彼は言葉を置いていく。





「私も負けるつもりはないのだよ」

「――――」





 ああ、くそ。
 なんてこう、悪いときに!

 大きくため息をはく。そして噂というものはいったい誰が流したのかと首を傾げる。文のやりとりをしているのは、嘘ではない。彼女を助けたあとも、お礼の文を貰った。

 ――――若葉。

 私だって、あんな色好み男になど負けるつもりはない。そして、若葉をみすみす諦めるようなこともしない。

 さて、と思ったときである。
 また「行成殿」と呼ばれたのは。

 門から少し離れた場所にいた私を見かけて声をかけてきたのは、顕季殿だった。彼も出仕していたようである。

 私も歩いて近寄れば「今の」と基俊殿が去っていった方を見る。





「どうやら私が妹君を送ったのを見かけたようです」

「なんと。ああ、また厄介なことに……。またご迷惑をかけてしまい申し訳ない」






 大切な妹と契ろうとした男から妹を守ろうとした兄は、思い出したかのように口を開いた。




「敦忠から変なことを聞かれて、それをそのまま行成殿に話せと言われたのだが……。今、お時間はよろしいか?」

「ええ、構いませんが」




 あいつ、何をいったんだ。


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