星月の君




 あれこれ問題を持ってくるのはたいていあいつだ。まあ、そのほとんどは自分の恋愛云々なのだか、と思っていると予想外なことを言われて、思考が止まった。
 いった本人は、それが何を意味するのかもちろん知らない。それを知っているのは私か、私から話を聞いた敦忠だけであるのだから当たり前だろう。

 敦忠は顕季殿に「多分、行成が元服前くらいなんだけどさ、君の妹って彼の邸に行ったことがないかい?」と聞いたらしい。


 ―――あの馬鹿余計なことを!
 それをおまえが聞いてどうするんだ、と言いたくなった。

 聞かれた本人は、何故そんなことを聞かれるのかわからなかっただろう。
 思わず顔を覆った私に、顕季殿は続ける。





「敦忠に言われた通り、実は昔、行成殿の邸に招かれたことがある。あれは、そうだな、若葉がまだ裳着前だったか―――。年の近い子供も集まるということで私と若葉も一緒に行ったことがある、と敦忠に答えたのだ」




 まさか、そんな。

 沈んでいた気が、一気に引き上がる感じがした。もしかして、という可能性。
 あの星月の君が、もしかしたら。

 私の確かめの言葉に、一瞬顕季殿はきょとをんとした。これでいいのだろうかといった様子に、私はなんと言えばいいのかわからず「そう、ですか」とだけが精一杯だった。





「―――あの笛の音は、亡き父が教えてくれた。最初は私が教えて貰っていたのだが、聞いていた若葉も習いたいといいはじめてね」




 あの子はよく私の真似をしたがった、と顕季殿は微笑む。当時のことを思い出したのだろう。


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