星月の君
―――――会いに行くなら、別邸に。
源基俊殿が忍んできたということもあってか、別邸若葉をやったらしい。本当は傍においていた方が安全でもあるのだが、という言葉に続けて顕季殿は「あとは行成殿しだいだ」といった。
故に私は、前に遠出できた道を進んでいまた。
先に文を送っているので私が訪れることも知っている。そのため別邸つくとすぐに彼女にあえた。
「驚きました。兄と、あなたから同時に文をがきたんですから」
「難しい言葉遣いよりも普段のように話さないか。その方が私も楽だ」
「……、わかった」
丁寧な口調よりも、素なほうがいい。
許しを得て、部屋に足を踏み入れる。ここには信頼できる女房とともに来ているのだという。ここに案内したのは、静といって、あの基俊殿を追い払った女房らしい。それには「本当か?」と聞いてしまった。
見たところ普通の女房だった。そういうと若葉も小さく笑って「でしょう?」という。
「若葉の君。暫し私に話す時間をくれないだろうか」
―――負けるか、あんな男に。
己の気持ちがはっきりしたのは、敦忠にいわれたのもあったが、はっきり、あの基俊殿に「負けるつもりはない」と告げられたこで、確かなものとなった。
私とて、譲るつもりも負けるつもりもない。
いいけれど…、と了解をえて、私は話し始める。
それは、昔のこと。
自分がまだ元服前のことから始まる。
己の邸で見た、あの少女のこと。あのとき星月夜だったことから星姫、星月の君と勝手にその少女に名付けていたこと。
それから数年後の今に、その少女が奏でていた音色を聞いて、垣間見したこと。
うわさのこと。そして自分の思いに気がつかないふりをしていたこと。話せることは、出来るだけ話した。そう―――恋愛から身を引いていた原因も。
若葉は黙って聞いていた。
それは話すのがあまり得意ではない私であったから、すこし悔しいと思う。
もっと、深く伝えられたらいいのに。
敦忠やあの色好み男ならばもっと上手くいうのだろう。あいにく自分は得意じゃない。思ったことをそのままいうしかない。