星月の君
――――後日 。
「むっふふふ、感謝してよね。ゆ、き、な、り」
「気持ち悪い離れろ!」
あのあと結局顕季殿の別邸に数泊して、都に戻ってきたのだ。
そうして晴れて成就した、というときのこと。
邸に「ゆーきーなーりー」と入り込んできた敦忠は、酒を持参し、私にすすめる。そして自分も飲んでたちの悪い酔っ払いとなっていた。
「気持ち悪いって失礼な!僕だって、君の幸せを願っている一人なのにい」
「ああわかっているさ……ありがとう」
「うわあ、恋って人を変えるよねえ」
「追い出すそ」
「もー、ちょっといじったっていいじゃないか。そんな冷静な顔をしてるけど、もうにやにやしたいくらい幸せなくせに」
確かに、幸せだ。
ぶう、とふくれた敦忠が「今度は僕の番!ねえねえ聞いた?」と話始めたのを、私は聞いているふりをして聞き流していた。敦忠は気分が高まったのだろう。飲み過ぎてそのまま寝入った次の日「僕、なんか変なことを喋らなかった?」と聞かれたが、どうも答えられなかった。
全てまあ、なにもなかったことにする。
―――そんな話を、今は顕季殿の邸の一室でしていた。
風は心地よく、そして淡い灯りが灯されているだけで空を楽しむには十分だった。そして、隣にいる彼女の顔を見つめるにも事足りる。
空には月がない。
そのかわり、数多くの星が見え輝いていた。
「行成殿、そんなに顔を見られると困るのだけれど……」
「だったら、私のも見ればいい」
「む、無茶をいわないで。その、心臓に、わるいから!」
ふっと近寄れば、赤くして顔を背ける。悪戯心がわきあがり、耳へ口づけを落とすと「っなにをするんですか!」と怒る。が、あまり意味がない。
まだ手を出していないといったら敦忠が目を丸くして「よくもまあ、理性がもつねえ」といわれたのはつい最近のこと。お前とは違うのだ馬鹿者、と返した。