ベストマリアージュ
「え?あの……」


なにがなんだかわからなくて、振り返って見ると、さとしがハサミを手にこちらを向いた。


「髪、切りにきたんだろ?」


「え?ま、まあ……そうだけど……」


「そんなきたねぇ髪の女が俺の彼女とか、ありえねぇから」


さらりと言ってのけたさとしのセリフ。


(い、今……彼女って……言った?)


「おふくろにも怪しまれんだろ?

髪切るって言ってたのに、変わってなかったら」


さとしの話はどんどん進んでいって、さっきの彼女発言を聞き返すタイミングを失ってしまった。


うん、そうだね?なんてぼんやりと相づちを打つ私を気にする風もなく、真剣な表情で器用に髪を切ってる。


鏡越しに見る、仕事モードのさとしは悔しいけれど相変わらず格好いい。


思わず見とれていると、鏡の中のさとしがふいに私を見た。


ドキリとして、慌てて目を逸らす。


「カッコよすぎて見とれてたんだろ?」


手を止めることなく笑いながらそう言ったさとしは、たぶんまた私を困らせたかったんだと思う。


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