ベストマリアージュ
でも私は、そのとき素直に返事をしてしまった。


「うん、見とれてたかも」


さとしを調子に乗らせちゃうかもしれないと思いながら、それでもついそう言ってしまったのだ。


それなのに……


――あれ?


からかわれると思ってたのに、なんにも言ってこない……


不思議に思って見上げると、そこには真っ赤になって有り得ないくらいうろたえてるさとしがいた。


「え?ど、どうしたの?」


「うるせぇ!」


(もしかして、照れてる?)


私はなんだか可愛くなって、笑ってしまった。


「てめぇ、なに笑ってんだよ!覚えとけよ!」


そう言い放つと、さとしは無言でまた髪を切り始めた。


私はなすがままになりながら、幸せな気分になる。


こんな可愛い顔もあるんだなって思ったら、もっともっとさとしのいろんな顔を見てみたくなった。


そんなこと本人に言ったら、怒られちゃうけど……


シャキシャキと響くハサミの音と、落ちた何ヵ月分かの髪を見ながら、私はさとしとの新たな未来を予感した。

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