ベストマリアージュ
指定された場所は静かな老舗の喫茶店。
焦げ茶色の木のぬくもりが、落ち着いた印象を与えてる。
ドアを開けると、カランコロンと客を知らせる音がして、初老の髭をたくわえた男性が、いらっしゃいませと品よく言った。
それほど広くない店内を見回すと、見覚えのある顔が一番奥の席に座ってた。
「お待ち合わせですか?」
そう聞かれて小さく頷くと、彼が案内しようとするのを制して、ゆっくりと彼女の座る席へと近付いていく。
携帯をいじっていた彼女は、私に気付いてないらしく、私が向かい側に腰を下ろすと同時にようやくハッとして顔をあげた。
「あ……お久しぶりです」
慌ててそう挨拶をして、小さく頭を下げる彼女。
「こんにちは」
私はそれだけ言うと、さっきの店員らしき初老の男性を手をあげて呼び寄せた。
「コーヒーを一つお願いします」
かしこまりましたと去っていく彼を見送ってから、そのまま視線を彼女に移す。
「妊娠……してるんだ?」
膨らむお腹は、七ヶ月といったところか。
以前見たときよりも、ふっくらしていて、髪も短くなっていた。