ベストマリアージュ
それだけ言って席を立った。


彼女はまだ何か言いたそうに、私を目で追ってくる。


そんな義理ないんだけど、なんとなく可哀想な気がしてしまった。


だから安心させようと思ったのかもしれない。


「それにね?

私にはもう他に大切な人がいるの

だから大地にはほんとに未練ないから

お母さんになるんだから、もっとしっかりしなきゃダメだよ?

このくらいで動揺してちゃダメ」


彼女の目に涙が溢れた。


そんな彼女を置いたまま、伝票を持って立ち上がる。


後ろで小さくごめんなさいと、か細い声が聞こえた。


きっと後ろめたかったんだろう。


だけどそれでも大地を取られたくなくて必死だったんだと思う。


まったく、ちゃんとしなさいよ、大地。


そんなこと私が言えることじゃないけど、それでも私を捨ててまで一緒になったんだから、二人には幸せになってほしいと思えた。


そう思えたのはきっとさとしのおかげ。


今からでも間に合うだろうか?


無性にさとしに会いたくなって、帰り道を歩きながら電話してみる。


呼び出し音を聞きながら、私の頭はもうさとしのことでいっぱいになっていた。



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