ベストマリアージュ
あいつって……


大地のことだよね?


まさか、大地に会うと思って、つけてきたってこと?


「お前がまだ、あいつに未練があるんじゃないかと思って……」


いつもの強気なさとしじゃない、心細そうな、顔。


まさか、まだ気にしてたなんて思ってもみなかった。


「もう未練はないって、言ったじゃない……」


さとしの頬にそっと手を添えてそう言うと、彼はその私の手にゆっくりと自分の手を重ねた。


「あぁ……そうみたいだな?」


さっきまでの弱々しさはどこへやら、急にニヤッと笑ったさとしは、私の手を握ったまま顔を近づけてくる。


――ちょっ!待って!ここ駅のホームだよ!?


声にならない声をあげながら、私はギュッと目を瞑り肩をすくめた。


付き合うようになってから、一度も触れることのなかった彼の唇が、微かに私の頬を掠める。


――あれ?


キスされると思ったのに、そうじゃなかった。


彼の顔は気づけば私の頭の上に乗っていて、ゆるゆると私の背中に腕を回してる。


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