ベストマリアージュ
来ちゃった……
目の前には少し小さめのマンション。
これが寮だって言うんだから、かなり豪華だ。
確か、さとしの部屋は203号室。
5階建ての半分くらいが会社の寮になってるって、いつだったかさとしが言ったのを覚えてた。
正面玄関は自動ドアじゃなくて、押すタイプの重たいドア。
中に入るとすぐ左に管理人室があって、右にはポストが並んでいる。
私はさも当たり前のように、こんにちはと管理人さんに声をかけて、その奥にあるエレベーターへと向かった。
今日は火曜日――
さとしは休みで家にいるはずだ。
給料日前で、今週は帰れないってこないだの電話で言ってたから。
2階のボタンを押して、エレベーターに乗り込む。
少し古いけど、掃除は行き届いてるみたいで、清潔な感じがした。
2階に着いて扉が開くと、目の前のホールにある窓のところに、草花が一輪挿しに生けられていて飾られていた。
(わぁ、可愛い!)
こういう細やかな心遣いがあるマンションだと、安心感がある。
さとしに黙って来てしまったことを後ろめたく思う気持ちをどっかに押し込めて、私はそんなことを思っていた。