ベストマリアージュ
さとしの胸をそっと押し返して、隙間を作る。


抱いてくれていた手をさとしも下ろして、お互いの視線が絡み合った。


涙に濡れた目元を、さとしの指がそっと触れてくる。


「はっ、不細工」


いつもみたいな憎まれ口にも、私はうまく反応できなくて、さとしは困ったように笑顔を崩した。


「来んなっつったろ?」


「……あの人が、いるから?」


私の言葉に驚いたように目を見開いて、すぐに、あぁ……と思い出したように頭をかいた。


「まぁ、確かにあいつに会わせたくなかったっつーのもあるけど……」


今度は私が目を見開く番だ。


ひどい!認めるの?


それから、別れようって大地みたいに言うの?


「やだ……」


「はっ?」


「やだ!私、さとしと別れたくない!」


拳を握りしめて、アスファルトを見つめながら、私は思わず叫んでた。


もうあんな思いはしたくない。


ちゃんと自分の気持ちを伝えて、もう後悔しないようにするんだ。


それで、突き放されたんなら、前みたいに引きずらなくてすむかもしれない。


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