ベストマリアージュ
二人の城だった場所を、いよいよ出ていかなければならなくなった前の日の晩。


私たちは最後の食卓を囲んでいた。


ガランとした部屋の中には、布団と衣類が少し残っているだけだ。


あとは明日の引っ越しで持っていく段ボールばかり。


だから夕食といっても、食器を使わなくていいように、すべて買ってきたものだ。


缶ビールのプルタブをプシュッと開けた音が、テレビもなにもない空虚な部屋に響く。


何か話さなきゃと思うのに、何を話していいのかわからなかった。


明日になれば、私たちの接点は何一つなくなる。


離婚届はすでに提出しているし、この部屋だけが彼と私を繋ぐものだった。


『この部屋が売れるまでは、珠美とここに住むよ』


そう言ってくれたのは、彼なりのせめてもの罪滅ぼしなのかもしれない。

その言葉通り、彼はこの部屋で私と暮らす間は、外泊することなく、毎日きちんと帰ってきてくれた。


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