ベストマリアージュ
「なにって、キスだけど?」


飄々とした態度で当たり前みたいな顔をしてる。


「なん……で?ひどい!」


涙が出た。


悲しいからじゃない。


自分に腹が立ったから。


「あんた、欲求不満みたいだったからしてやっただけだよ」


男の部屋にのこのこやってきて、あんな話したんだもん。


こんなことされても文句は言えない。


帰らなきゃ……


強張る体をなんとか動かして、ゆっくりと立ち上がる。


それから何もなかったみたいな顔を必死に作って優也を見た。


「おじゃま……しました」


笑え、こんなのなんでもないんだって優也に思わせなきゃ。


さっきの涙を手のひらで拭いながら、ペコリとお辞儀をして玄関に向かう。


裏切ったわけじゃない。


こんなの、ただの事故だ。


優也に背を向けた途端、また涙が溢れだした。


漏れそうになる嗚咽を手で押さえて靴を履こうとしたとき、いつの間に来ていたのか、後ろからガシッと腕を掴まれた。


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