ベストマリアージュ
「……さとし?」


さとしの胸に閉じ込めるような抱き締め方じゃなくて、私の肩に覆い被さるみたいな寄りかかり方。


あ……さとしの匂い。


こんなときなのに、そんなことを思う私はやっぱり欲求不満なのかもしれない。


でもこんなに近くでさとしを感じたのは久しぶりだ。


付き合ってからいつもいい雰囲気になるとサラッとかわされてたから……


さとしの重みを肌で感じて、私も彼の背中に腕を回した。


ギュッと抱き締めるとさとしが私の肩からゆっくりと頭を持ち上げた。


至近距離にさとしの顔があって、ドキドキが止まらない。


もしかして、キスされるのかな?


付き合って初めてのキス。


やっぱり目は瞑った方がいいよね?


ジッと私を見つめるさとしを誘うように、私は静かに目を閉じた。


「……」


あれ?おかしいな?キスじゃないの?


せっかく目を閉じたのに、唇が触れる気配が全然感じられない。


不思議に思ってまた目をパチッと開けると、さとしは困ったように私を見ていて……


やっぱりさとしは私にそういう感情は湧かないんだと、悲しくなって目を伏せた。


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