ベストマリアージュ
「お金ないのにごめんね?

ごちそうになります」


うわっとバランスを崩しながら、照れたように振り返ったさとしは「そうだぞ、心して食え」と偉そうに笑った。


ただ気を遣うことが相手のためじゃないってことが、さとしと付き合ってわかった。


ちゃんと甘えて、ちゃんと謝って、そんな風に側にいてもいいんだって、思わせてくれる。


大地の表面だけの独りよがりな優しさじゃない。


さとしの優しさは相手のためのもの。


自分は嫌われても相手のためにきちんと意見を言ってくれる。


だから私も駆け引きなんかしなくていいのかもしれない。


もっと素直に、私自身もさとしを見習って優しさを与えられたらいい。


腕に絡み付く私の腕を、くっつくなよ!と嫌そうに押し退けるさとしを、可愛いなんて言ったら怒るんだろうな?


イチャイチャするのが苦手なさとしにわざとくっつくのは楽しくて仕方ない。


それぞれにそれぞれの形があって、私達はこのスタイルがいいのかもしれないと思う。


あの奥さんも……


大地との形を見つけられたらいいな?


さとしの背中を追いながら、私は頭の中でそんなことを思った。


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