ベストマリアージュ
怒ってないって言ったら嘘になる。


だけどそれだけじゃない。


さとしに一番に祝ってもらいたかった誕生日。


食事だって夜景だって……キスだって……


私は今日、全部違う人としちゃってるんだ。


「ごめん……そういう……気分じゃなくて……」


怒るかなと思ったけど、意外にもさとしは優しくて……


「いや、いいよ

俺が遅くなったのが悪いんだし

気にすんな?」


悲しそうに笑いながら、頬に触れていた手で今度は頭をそっと撫でた。


この部屋を今日とってくれた意味。


私の誕生日を最高のシチュエーションで、そのときに二人の初めてをって、そう言ってくれたさとしの気持ちは嬉しかったけど……


もうその意味はなさないかもしれない。


だって私の誕生日はあと数分しか残ってない。


キスさえまともに出来ないのに、それ以上なんて無理だ。


最高の誕生日になるはずだったのに、最低な誕生日になるなんて……


優也が現れなければこんな風に思わなかったかもしれない。


仕事でただ遅くなったのさとしを労って、残された短い時間で素直に祝ってもらえたかもしれないのに。


< 234 / 307 >

この作品をシェア

pagetop