ベストマリアージュ
「そっか、良かった」


良くないよ……


「1人で食わせて悪かったな?」


1人じゃなかったんだよ?……さとし……


「旨かった?」


味なんか全然わかんなかったし……


「夜景も見えた?上からも」


そんな風に聞かないで!


私、どれにも答えられない。


「珠美?どうした?」


慌てたような顔が、私に駆け寄る。


「泣くなよ……悪かった」


答えられないことへの罪悪感と、なんで早く来てくれなかったの?ってさとしを責める気持ちとで、グチャグチャになる。


だんだん嗚咽に変わって泣きじゃくる私を、さとしは黙ってくるみこむように抱き締めてくれていた。


大切に思ってくれてるんだって、体から伝わってくるような気がする。


さとしは大地とは違うんだって、思いたいのに……


優也の声が頭に響く。


『珠美ちゃんとの初めての夜より、昔味わった身体を選んだってことだよ』


私のトラウマはまだ消えてなかった。


信じきれない自分に嫌気がさす。


さとしの体温と匂いに安心してるくせに、それが同時に私を切なくさせた。


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