ベストマリアージュ
顔を見る間もなくくるりと椅子を反転させられて、何事もなかったようにまた腰のシザーズケースからハサミとコームを取り出すと器用に髪をカットしていく。


鏡の中のさとしをジッと見つめたけど、それからは一度も目が合うことはなかった。


何か感づいてるとは思うのに、聞きたくないオーラが伝わってきて居たたまれなくなる。


このまま、お互いにわだかまりを持ったまま付き合っていくのかと思うと、それはそれで悲しかった。


失いたくないためについた嘘。


傷つけたくないために隠した優也とのキス。


でもそれは同時に自分が傷つきたくないからでもあって、さとしを言い訳に黙ってることを正当化してるようにも思えた。


クリスマスの夜、一緒に過ごす前にきちんと伝えるべきなのかもしれない。


そこでダメなら諦めよう。


私に言えるのはさとしが好きだってこと。


他の誰でもない。さとしとこれからもずっと一緒にいたいってこと。


それらを伝えた上で、判断するのはさとしだ。


こんな悲しそうな顔をさせるくらいなら、きちんとさせた方がいいに決まってる。


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