ベストマリアージュ
「終わったぞ?」


バサッと巻かれたケープとタオルが取り払われて、ハッとする。


筆で顔についた細かい毛を払ってくれてる間も、息が出来ないくらい緊張した。


キスされそうな距離。


だけどこんなときにキスしてくれるわけもなく、払い終わるとすぐにさとしの顔はスッと離れていく。


私ばかりがドキドキしてバカみたいだ。


『欲求不満の珠美ちゃん』


優也の悪魔の囁きが頭を掠めて、恥ずかしくなった。


「わりぃ、俺、明日早いからもう寝るわ」


椅子に座ったままの私に、さとしがそう声をかけてくる。


暗に帰れって言ってるのがわかって胸が苦しくなった。


言われるままに立ち上がりながら、鏡の中の自分をそっと見る。


いつもより短くカットされた髪はよく似合っていたけど、同時に失恋した女の子みたいに見えて、妙に切なくなった。


「髪……ありがとね?
おやすみなさい」


それだけ言ってさとしの部屋を出る。


「クリスマス、忘れんなよ?」


最後に背後からそれだけ聞こえて、嬉しいはずなのになぜだかすごく悲しくなった。


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