ベストマリアージュ
同じホテルなのは、さとしのこだわりなのか、それともここでの時間を上書きしたいのか、それはわからないけれど、私自身はせめていい思い出にしようと、この間とは違うワンピースに身を包んでいた。


せっかく奮発して買った黒のワンピースには、嫌な思い出しか残っていない。


だから、短くなった髪によく似合う白のワンピースをあえて新調した。


コートは品よく黒いウールのシンプルなもの。


前回は髪をアップにして女らしさを強調したのに対して、今回はショートだからこそ映えるピアスをつけてキュートさをアピールしてみた。


揺れるタイプのそれは、細工の綺麗なもので、小さいながらもダイヤが3つ入っている。


実はこれは誕生日のプレゼントにって、あのあとさとしからプレゼントされたものだ。


何日かしてから、さとしの家で会ったときに、ぶっきらぼうに手渡された。


きっとあの夜景の見える部屋でほんとはロマンチックに渡してくれるはずだったんだろうなと思うと、申し訳ない気持ちでいっぱいになったっけ。


腕時計を見ると8時半まで、あと5分。


ロビーにまださとしはいないようだった。


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