ベストマリアージュ
私の言葉に一瞬眉を潜めたさとしは、今度は諦めたように右手で頭を掻いた。


「あのなぁ……

人の話、ちゃんと聞けよ

俺、美容師なの!」


「……っ!」


美……容師?


「えぇーーーーーーっ!」


私は心底驚いて、思いっきり叫んでしまう。


「うるっさ!おっ前、耳元で叫ぶんじゃねぇよ!」


「いやいやいや、初耳だから!

いつから?そんなの、お母さんも言ってなかったし」


「高校卒業して専門いって、珠美が嫁にいく頃はまだ下っ端だったから、敢えて言わなかった」


「ふうん、へぇ……あんたがねぇ?

ま、小さい頃から器用ではあったよね?」


年下扱いされたのが気に入らないのか、さとしはうるせっと小さな声で言い捨てたあと、また不敵な笑みを浮かべる。


「て?どうすんの?

お前、金無さそうだし、俺が切ればただにしてやるよ」


どうしよう……


確かにお金は……ない。


時給900円のパートじゃ、あんまり稼げない上に、お世話になってるからと、実家に気持ちだけどお金を入れていた。


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