ベストマリアージュ
「お~、こうやってやるんだね?

やっぱ、プロは違うなぁ」


「ブツブツ言ってねぇで、覚えろ!

ったく、私に構ってないで彼女とかに会ったら?とか言ってたのは、どの口だ!こら!」


口をタコみたいに掴まれて、モゴモゴしながら必死に抵抗する。


「やめへよ、ひはい」


(やめてよ、痛い)


さとしは乱暴に手を口から離すと、またメイクを再開させた。


彼の顔が近づいてくる。


その真剣な眼差しは、私を見ている訳じゃなくて、私の顔をキャンパスに見立てているんだろう。


いつもながら、こいつは顔だけはいい。


だから、思わず見とれてしまった。


さとしが私を見ていないのをいいことに……


唇にルージュがひかれる時、彼の吐息が顔にかかる。


私は緊張してしまって、何故か息を止めた。


意外にも、それはわりと長い時間で、息を止めるのにも限界がくる。


顔に熱が籠るのがわかり、体が震えてきた。


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