ベストマリアージュ
そんな思いを悟られたくなくて、私は顔を隠すように俯いた。


「もしかしてさ

珠美、こういうキスしたことないんだろ?」


そんな問いに答えられるはずもなく、私は俯いて黙ったままだ。


「もし、ほんとにあいつが、お前のこと嫌いじゃなくて別れたんなら、浮気相手の体が良かったんじゃねぇの?」


「……っ!」


私は弾かれたように顔を上げて、さとしを見た。


ニヤニヤしながら言っているんだと思われたその顔は、意外にも真剣で……


思わずまた俯いてしまう。


「もし……ほんとにお前があいつを取り戻すつもりなら……

俺が男の喜ばせ方、教えてやるよ」


頭の上から降ってきたその声は、やっぱりからかうようなものなんかじゃなくて……


今の……キスも、その一貫だったんだと、わかった。


それは……さとしと、そういうことをするって、意味で……


私はさとしの言葉の意味に、体を硬くした。


< 77 / 307 >

この作品をシェア

pagetop