ベストマリアージュ
こちらに顔を向けた大地に軽く手を振って合図する。


店員に促されて、こちらに歩いてくるのが見えた。


おかしくないかな?


大地のために選んだ、ベージュのワンピース。


さとしが選んでくれたお店で、そこのお姉さんに相談しながら、購入したものだ。


さすがにさとしに付き合ってもらうわけにもいかず、自分でなんとか頑張った。


「久しぶり」


そう言って笑う大地の顔は、昔とちっとも変わってなくて……


もしかしたら、離婚したこと自体が夢だったんじゃないかと思ってしまう。


「久しぶり……、元気……だった?」


私も笑顔で返そうとしたのに、うまく笑えない。


対面の席に座った大地は、うん、元気だよ?なんて、余裕な感じすらしてる。


私が呼び出した意味を知らないはずはないのに、以前と変わらない穏やかな空気がそこにはあった。


「手紙、届いたかな?」


ふいに聞かれて、私は思わず表情を硬くした。


手紙っていうのは、あの彼女と再婚したという知らせに他ならない。


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