温め直したら、甘くなりました
すっかり忘れていたのだが、俺は今日で作家になって10年が経つらしい。
18でデビューし、ただ一心不乱に書きたいものを書いてきた。
締切と、借金取りのようにしつこい安西の圧力には苦しめられているが、まあまあ充実した日々だ。
「いつもお仕事お疲れ様。それからありがとう。私のために、忙しい時間をたくさん割いてくれて」
茜が俺のグラスにビールを注ぎながらそんなねぎらいの言葉をかけてくれるものだから、俺はまたしても涙腺を刺激されてしまう。
「いや……前の俺が悪かったんだ。忙しくて仕事場にこもりきりだった頃より、茜と過ごす時間を増やした今の方がずっと精神的に楽になった。茜のためというより、自分のためにしていることだから気にするな」
「……それでも、ありがとう。私今、とっても幸せよ」
「茜……」
――――ものすごく、ものすごーくいいムードなのだが。
俺たちの向かい側に座るとんがり帽子の男の大泣きっぷりが耳障りで、甘い雰囲気が台無しだ。
「……うるさいぞ、安西」
「だって……先生がどれだけ茜さんのことで悩んでいたか知ってる俺としては、なんか感動してしまって……。この前はつまらないとか言ってすいませんでした!」
食卓で大げさに頭を下げた安西。すると奴の帽子が勢いよく、テーブルの上のケーキに命中した。
べしょ、という不吉な生クリームの音とともに。