温め直したら、甘くなりました
「すす、すいません!」
安西は大げさに取り乱して謝った。
別に俺はショートケーキが大好物という訳でもないから、少し潰れたくらい別にどうってことないと思っていたのだが……
「集の……大事なケーキが……」
隣の茜が何故か瞳を潤ませていたので、俺は驚いた。
「昨日何度もスポンジを焼いて、一番いい状態のものを選んで、今日は朝から心をこめてデコレーションしたのに……ひどい、こんなの、あんまりだわ」
両手で顔を覆って、めそめそ泣き始めてしまった茜
俺は慌ててその肩を抱きながら、安西に“今日はもう帰れ”という意味を込めて目配せをした。
安西はこくりと頷くと、椅子の下から何かを取り出し俺に差し出してきた。
「……なんだこれは」
「俺からのささやかな10周年祝いです。きっと今晩役に立つと思います。では、俺はこれで」
半ば押し付けられるように受け取ったプレゼントは、まるでサンタクロースが持つような大きな袋に包まれていた。
安西が玄関を出て行く音を聞くと、茜は顔を隠していた手をどけて、俺を見た。
何故かその目に涙の跡はない。
「……やっと邪魔者がいなくなった。ねえ、何をもらったの?」
なんと……嘘泣きだったのか。
でも確かにあいつは邪魔だった。グッジョブ茜。
俺は茜が注目する中で袋のリボンを解き、二人でその中身を覗いた。
「これは……」
「…………安西さんの趣味、かしら」