温め直したら、甘くなりました

――――茜の店のカウンターは、L字型になっている。


俺はその短い辺の方の席に座って、茜とある客のやり取りを観察していた。


その客は40代くらいのサラリーマンで、酒のシメとしてご飯とみそ汁を食べていた。



「今日も茜ちゃんの作る味噌汁はうまいなぁ。どうしてカミさんの作るのとはちがうんだろう……」


「お出汁を基本に忠実に取っているからかしら。基本って意外と大切なんですよ」


「そうかぁ……ズボラなアイツには無理だな」


「奥さまは私みたいに料理だけ作ってればいいってわけじゃないでしょう?ゆっくり出汁なんか取ってる暇がないんですよ、きっと」


「まぁなぁ……子供がもうすぐ受験を控えてて、毎日ピリピリしてるみたいだし、アイツもアイツなりに頑張ってるのかもな……」



茜の柔らかな物言いで、初めは自分の妻を罵っていたはずなのに最後には思いやるようなことを言ったサラリーマン。


ここ数日俺はずっとここで今日のような観察を続けているが、だいたいの客が初めは仕事や家族の愚痴を吐き出しているにもかかわらず、帰るときには皆、笑顔になる。


酒のせいももちろんあるだろうが、それ以上に茜の料理と会話のおかげなんだろうと、最近気づき始めた。

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