温め直したら、甘くなりました
「じゃあな、茜ちゃん。また来る」
「お待ちしてます。お気をつけて」
さっきの客が勘定を済ませて店を出る。その姿を見送る茜は上品な笑顔を浮かべていて、美人女将そのもの。
……なのに、残った客が俺だけになったのを確認すると表情が一変するのはなぜだ。
“毎日ここに来るのはやめろ”と油性マジックで顔に書いたんじゃないかと思うほどにあからさまな、迷惑顔。
俺だって、客の観察をしようと思って毎日通っているわけではない。それにはちゃんとした理由があるのだ。
「茜、さっき基本がどうとか言ってただろう」
「……勝手に聞き耳立てないでくれる?」
……客>夫の関係は、まだまだ逆転しないらしい。
今日もすがすがしいほど俺にだけ冷たいぞ、茜。
「勝手に話を聞いたのは悪かった。だけど今言いたいのはそんなことじゃなくて、茜の言う料理の“基本”ってやつを俺に教えてくれないかと思ったんだ」
「……教えるって、なんで」
「俺が料理できるようになったら、茜の負担が減るだろ?」
「教えることが負担な場合は?」
…………そうきたか。