温め直したら、甘くなりました
口では冷たいことを言いつつも、根は優しいのが茜だ。
俺が頼み込むこと30分、ついに“かつおと昆布の合わせ出汁”という関東では最もポピュラーな出汁の取り方を教えてくれることになった。
「まずは昆布を乾いたふきんで拭いて。白い粉はとっちゃだめよ、それが美味しいんだから」
「昆布を拭く?」
「乾物っていうのは汚れているものなの。拭けたら鍋にお水を入れて、30分漬けておく」
「30分……さっきの時間が無駄だったような……」
「何か文句ある?」
「いや、ない……」
「今日は練習だから取りあえず30分経ったことにすればいいわ。そしたら弱火にかけて、沸騰する前に昆布を取り出すの」
なんだか厳しい女教師にしごかれている気分だ。相手は妻なのに、委縮してしまう。
その代わりに昆布を取り出すタイミングを成功して褒められたときは、ガッツポーズを決めたくなるほど嬉しかった。
昆布を取り出した鍋に鰹節を入れ、今度は沸騰してから火を止めて1分置いた。
それから布巾を敷いたざるで濾すと、見るからに美味しそうな黄金色の出汁が取れた。