温め直したら、甘くなりました
私は、板前の格好のまま隣に佇む集の頬に触れた。
顔立ちは、どちらかというと和風だから……その格好、似合ってるのよね、悔しいことに。
「……そうか、その手があったか」
「…………?」
「茜!ファーストキスの場所は!?」
「え、確か……裏山の、神社の境内」
「時間は!」
「学校帰りだから……夕方、だったかしら」
「よし、俺が茜のファーストキスの相手になる。次の休みの日に、神社で待ち合わせよう。時間は、そうだな……五時だ」
「ちょっと待ってよ……全然意味が解らない」
「……八百屋なんかに、負けてたまるか!」
空気を読めないだけでなく、日本語まで通じなくなってしまったらしい集は、そのまま風のように、店から出て行ってしまった。
春の夜は、まだ寒いのに……板前姿のままで。
奥の部屋に残された着替えは、私が持って帰ることになるのか……
結局、キスできなかったし、なんか、悔しい。