温め直したら、甘くなりました
「……おお。なんていうか、その明らかにコスプレにしか見えないところが堪らないな」
「……変態」
「茜相手なら変態にだってなるさ。じゃあ早速、キスの場所はどこだったか教えてくれ」
私は、自分の服装が恥ずかしすぎて喋る気力を失い、黙って大きな狛犬(こまいぬ)を指さした。
よし、と頷いた集に手を引かれてその石像の影へと連れて来られると、当時のことが蘇ってきた。
――例の幼なじみは片山聖司(かたやませいじ)という名で、小さなころからずっとお互いを意識してきた。
だけどきっかけがなくて幼なじみのまま前に進めなかった私たち。
その微妙な関係を変えたのは、聖司の選んだ進路だった。
『俺、全寮制の高校に行くんだ。だから春にはこの町を出て行く』
野球部で活躍していた彼は、高校でも野球に打ち込みたいと私立の名門高校へと進むことを決めてしまっていて、私を神社に呼び出したのは、そのことを伝えるためだった。
『俺、ずっと好きだったよ。茜のこと』
『うん、せーじ、私も……』
どちらからともなく、唇を重ねた。
ほんの一瞬。短いキス。
私は確か泣いていたと思う。ずっと、聖司は近くに居てくれると信じて疑わなかったから。
でも、中学三年生の私たちにはなすすべもなく……
私たちはその小さくて大切な初恋を、終わらせるという選択をするしかなかった。