温め直したら、甘くなりました
「ねぇ、集」
「ん?」
「どうしてそこまで私に執着するの?あなたの顔と才能とお金があれば、もっと若くてかわいい女の子たちが群がってくるんじゃないの?」
口に運んだ海苔巻きを咀嚼し、それを酒で流し込みながら茜が俺に聞く。
「今さら何言ってるんだ。そういう女が嫌だから茜なんだ。茜は、俺の顔にも才能にも金にも興味ないだろ」
「まあ、そうねぇ……」
もぐもぐと、今度はいなり寿司をほおばる茜。少しも否定されないのは、ちょっと悲しい。
「……でも、結婚してくれた」
俺は、一杯目の酒を飲み干すとそう言って茜を見つめた。
「理屈じゃなく、引き寄せられるみたいに出会って、夫婦になれた。俺はこれを運命以外のなにものでもないと思ってる。茜じゃなきゃ、駄目なんだ」
どうして茜を前にすると、陳腐な台詞しか思い浮かばないんだろう。
俺の書く小説に出てくる男たちは、もっと言葉巧みに、女を落とすのに。
もしかしたら本当の恋愛というのは、限りなく陳腐なものなのかもしれない。
かっこつける余裕がないほど、相手を好きだから。